2009年7月 4日 (土)

判例タイムズ (1295号/判例タイムズ社)
 

相続人の1人に対して全財産を相続させる旨の遺言がある場合に,他の相続人が遺留分を主張したケース。被相続人は,財産だけでなく負債も残して亡くなっていたため,遺留分額の算定に際し,負担すべき相続債務の額を加算すべきではないかが争われました(最判H21.3.24)。

まず,本件のような遺言の法的性質は,「相続分の指定を伴う遺産分割方法の指定」であるというのが一般的理解だと思います。

そこで,このような理解を前提に,今度は,相続債務の帰属を検討することになります。

この点,債権者との関係(対外関係)では,相続人全員が法定相続分に応じて債務を承継するということで,ほぼ異論はないでしょう。

しかし,相続人間の関係(内部関係)については,考え方の分かれるところです。本判決は,原則として,財産のみならず負債についても相続分の指定があったものと解すべきであるとし,本件事案では,全財産を相続した相続人1人に全債務が帰属すると判示しました。

従って,仮に他の相続人が債権者の求めに応じて弁済をした場合は,内部的に債務を負担する相続人に対して求償しうることになりますから,この分をわざわざ遺留分に含めて二重評価する必要はないという結論に至ります。

【参考】 離婚弁護士の訟廷日誌弁護士小松亀一


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2009年5月 6日 (水)

判例タイムズ (1290号/判例タイムズ社)
 

相続人の1人が,金融機関に対し,被相続人名義の預金口座について取引経過の開示を求めたケース。金融機関側は,相続人全員の同意がないことを理由に開示を拒んでいました。

この点,最判H21.1.22は,開示請求が権利濫用にわたるなど特段の事情がない限り,各相続人が単独で取引経過の開示を請求しうると判示しました。

理論構成としては,(1) 預金債権が各相続人に分割承継される以上,自らの預金に関する取引経過の開示を求めうるのは当然であるという見解と,(2) 預金契約上の地位を各相続人が準共有しており,その保存行為(民法252条但書)として各相続人は単独で取引経過の開示を求めうるという見解(預金債権の帰属の問題とは切り離して捉える立場)がありえますが,上記最判は後者を採用しました。その理由は,評釈によると,(1)の立場に立った場合,他の共同相続人が分割承継した部分について守秘義務違反やプライバシー侵害の問題を生じるからだということです。

また,貸金業者の取引履歴開示義務と比較した場合,信義則上の付随義務ではなく,預金契約上の本来的義務として開示請求を認めた点が特徴的と言えます。

【参考】 Matimulog田舎弁護士の訟廷日誌福岡若手弁護士のblog村松雄太の弁護士日記弁護士fujita的日々奥村徹弁護士の見解青森の弁護士


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2009年4月15日 (水)

判例タイムズ (1289号/判例タイムズ社)
 

遺産分割調停において,相続人の1人が遺産を取得する代わりに,その代償として自己の固有財産たる土地を他の相続人に譲渡する旨の調書が作成されたが,後日,この調書に基づく移転登記申請が法務局で却下されてしまったという事案。

このようなケースでは,通常,「遺産分割による贈与」という登記原因が用いられているのですが,上記調停調書では単に「譲渡」とあるのみで,登記原因となる法律行為が特定されてないと法務局が判断したわけです。

調停段階で代理人が就いていたのかどうかはわかりませんが,もし就いていたのなら,そらもう真っ青になったことでしょう。

幸い,このケースは,上告審(最判H20.12.11)で,「本件事実関係のもとでは法律行為の特定に欠けるところはない」として救済されたようですが・・・。いや,登記は本当に恐ろしい。他人事ではありません。

【参考】 離婚弁護士の訟廷日誌


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2009年3月23日 (月)

週刊法律新聞 (1800号/法律新聞社)
 

民法819条(離婚後は父母の一方のみを親権者とする)の規定を改正し,離婚後も引き続き双方に共同親権を認めてほしいという請願署名が衆参両議院に提出されたそうです。

この署名をとりまとめたのは,「親子の面会交流を実現する全国ネットワーク」という団体で,離婚した後に子供と面会できない親らで組織されているそうです。離婚時に面接交渉の合意をしたにもかかわらず,その約束が反故にされて子供と会えなくなるケースがあるため,そういった状況を改善することに主眼があるようなのですが・・・。

うーん,いかがなものでしょう。離婚後の父母の感情的対立を考えれば,両者は些細なことでも意見が食い違いやすい状況にあるわけでして,そのような中で親権の共同行使を認めることが果たしてどこまで「子の福祉」にかなうのか,疑問なしとしません。穿った見方をすれば,どうも親権を文字通りに「親の権利」と捉える発想が根底にあるようで,やや違和感を覚えます。


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2008年12月 2日 (火)

判例タイムズ (1278号/判例タイムズ社)
 

配偶者の不貞の相手方に対する慰謝料請求に関する論稿。岡山地裁倉敷支部の判事補である安西二郎氏が執筆しています。

実務上よく争われる点についてはほぼ網羅的に説明されており,この種の事案を扱う際の有用な指針となるでしょう。

以下,自分用メモ。

(1) 「婚姻関係は客観的に破綻していた」との主張(権利侵害の否認)
→「夫婦間で離婚話が出ている」「離婚届に記入している」等では足りない。別居の有無や調停申立の有無,具体的な離婚協議の有無等を検討する。裁判所の認定はかなり慎重(おおむね10件中9件はアウト)。

(2) 「配偶者がいるのを知らなかった」との主張(故意・過失の否認)
→職場・知人等の場面では問題となりにくいが,出会い系サイト等で出会った場合に問題となる。既婚者との疑いを生じさせる具体的事情がない限り,無過失としてよい。

(3) 「既に離婚手続きが済んだものと思っていた」との主張(故意・過失の否認)
→以前の婚姻を知っている以上,(2)よりも通りにくい。「離婚した」という言動を信じただけでは足りず,その裏付けとなる根拠まで必要。

(4) 「婚姻関係は破綻しているものと思っていた」との主張(故意・過失の否認)
→同じく通りにくい。やはり「破綻している」という言動を信じただけでは足りず,その裏付けとなる根拠まで必要。

(5) 消滅時効の起算点
→(a)不貞それ自体による精神的苦痛は「不貞終了時」,(b)婚姻関係が事実上破綻したことによる精神的苦痛は「破綻時」,(c)離婚に至ったことによる精神的苦痛は「離婚時」より起算する。但し,(a)より(b)の方が時期的に早い場合は,破綻した時点で不貞も終了と扱われる(破綻により保護法益が失われる結果,不法行為は終了する)。なお,(c)だけだと,金額が大幅に減るケースもあるので注意。

(6) 不貞の主導者
→配偶者が積極的に不貞を主導していた場合,そのことを(単なる内部的負担割合の問題にとどまらず)慰謝料の減額要素として斟酌する例が多い。

(7) 慰謝料の相場
→離婚や事実上の破綻に至ったケースで200万円前後,そこまで至らなかったケースで140万円前後が平均。

(8) 興信所の調査費用
→立証活動の上での重要性によるが,半額程度につき相当因果関係ありと認めた例も紹介されている。

【参考】 弁護士ラベンダー読書日記


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2008年11月16日 (日)

判例タイムズ (1277号/判例タイムズ社)
 

被相続人の預貯金が遺産分割の対象外であること(←可分債権である以上,当然に分割承継されるから)の確認を求める訴えは,確認の利益を欠き不適法であると判示した,高松高判H18.6.16。

不適法却下という結論自体よりも,その背景にある問題意識が面白いと思いました。

現在の最高裁の考え方によれば,預貯金は可分債権であり,相続人はこれを当然に(=遺産分割手続を経なくても)それぞれ分割取得すると解されています。よって,各相続人は,遺産分割手続が未了であっても,各自,金融機関に対して法定相続分相当額につき払戻請求をなしうるわけです。

・・・ところが,これをやってしまうと,相続人の一部が寄与分を有している場合に不都合を生じるというんですね。つまり,本来,寄与分権者は法定相続分よりも多めに遺産をもらえるはずですし,その反面,他の相続人は少なめの遺産しかもらえないはずです。にもかかわらず,最高裁の考え方に従って各相続人に法定相続分相当額の払戻請求を認めると,本来ならば寄与分権者へ多めに与えるべき遺産まで他の相続人の手に渡ってしまうことになるわけです(本件もまさにそのような事案でした)。その意味で,最高裁の上記見解は,非寄与分権者による「早い者勝ち」という事態を生みかねず,寄与分制度の趣旨を没却するという批判がなされています。

特に,遺産が預貯金だけという場合は,全く遺産分割手続を行う必要がないため,そもそも寄与分を斟酌する機会・場面が全くありません。・・・どうするんでしょうね。遺産分割調停はできないわけですから,不当利得返還請求訴訟でも提起するんでしょうか。やったことないので,よくわかりませんが。


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2008年11月 4日 (火)

判例タイムズ (1276号/判例タイムズ社)
 

面接交渉について間接強制の可否が問題となったケース。以前に否定例を紹介しましたが,今回は肯定例です。

大阪高決H19.6.7は,以下のとおり,面接交渉について相当具体的な調停条項が作成されていることを理由に,間接強制を認めました。

●母Yは,父Xが長男Zと毎週1回10時間程度面接することを認める。
●面接日は,土曜日または日曜日とする。
●面接日における長男Zの引き渡しについては,当分の間,面接開始時に父Xが母Y宅において長男Zを引き取り,面接終了時に父Xが母Y宅において長男Zを引き渡すこととする。
●長男Zの引き渡しについて,父X・母Yに支障がある場合は,その両親または代理人が行うことができる。

・・・確かに,調停ならこのぐらい具体的に書けるでしょうけど,果たして判決主文でここまで書いてもらえるんでしょうか。

【参考】 弁護士ラベンダー読書日記


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2008年10月14日 (火)

判例時報 (2011号/判例時報社)
 

家事審判に対する抗告状・抗告理由書を裁判所が相手方に送付しなかったため,相手方の反論の機会がないまま,相手方に不利益な抗告審決定が下されたというケース。

最判H20.5.8は,「相手方に不利益に変更するのであれば・・・少なくとも抗告状・抗告理由書の写しを相手方に(普通郵便で)送付するという配慮が必要であった」として,原審の手続進行に問題があったことを認めました。もっとも,家事審判は「非訟事件」であるため,憲法32条違反の主張は排斥されています。

うーん,代理人としては,不利益変更か否かにかかわらず,抗告があったのなら直ちに教えてほしいんですけど・・・。どうせ大した手間でもないのに,なんかケチですねぇ。


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2008年10月 8日 (水)

週刊法律新聞 (1781号/法律新聞社)
 

任意後見制度の改善に向けて,日弁連が中間提言をまとめたとの記事。

任意後見制度の悪用を防ぐため,公証人の権限を強化する規定(本人に契約締結能力があることが疑わしい場合,公証人は公正証書の作成を拒絶できる)の新設等が主張されています。

確かに,普段の法律相談でも,「親族の一部が任意後見人(受任者)として本人の財産を欲しいままにしているので困っている」みたいな話がよく出てきます。本人の判断能力の不十分さに乗じて,一方的に任意後見契約を結ばせるというケースも少なからず存在するのでしょう。


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2008年9月 2日 (火)

判例タイムズ (1271号/判例タイムズ社)
 

死因贈与の契約を結んだ後,受贈者が先に死亡した場合の処理が問題となった,京都地判H20.2.7。

具体的には,民法994条1項(遺贈は,遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは,その効力を生じない )を死因贈与にも準用すべきか,という形で争われました。

この点,本判決は,遺贈と死因贈与との違い(後者は一方的な撤回が認められない)を重視し,同条項の準用を否定しました。

ただ,直感的には,準用を認めてもいいんじゃないかなぁという感じもします。学説上は,準用肯定説(我妻)と否定説(谷口・注釈民法)が分かれているようですね。


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